舘教授
東京大学 名誉教授 工学博士
E-mail: tachi [at] tachilab.org
詳しい研究歴は、有馬朗人監修 『研究者』、pp.51-80、東京図書 (ISBN4-489-00601-2) を参照ください。
【略歴】昭和21年(1946年)1月1日東京に生まれる。昭和39年(1964年)3月都立戸山高等学校卒業、昭和43年(1968年)3月東京大学工学部計数工学科を卒業後、東京大学大学院工学系研究科計数工学専攻に進学し、 昭和45年(1970年)3月工学修士、昭和48年(1973年)3月工学博士の学位を授与される。その後、昭和48年(1973年)4月より東京大学工学部計数工学科助手、昭和50年(1975年)5月通商産業省工業技術院機械技術研究所研究員。主任研究官、遠隔制御課長、バイオロボティクス課長を経て、平成元年(1989年)9月からは、東京大学助教授を併任、平成3年(1991年)1月に東京大学先端科学技術研究センター助教授に転任、平成4年(1992年)4月に同センター教授、その後平成6年(1994年)4月に工学部教授、平成13年(2001年)4月から平成21年(2009年)3月まで、情報理工学系研究科教授。この間、東京大学において、学科長、専攻長、工学・情報理工学図書館長などを歴任した。東京大学定年退任にともない、平成21年(2009年)4月に、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授に就任、平成27年(2015年)3月まで、国際バーチャルリアリティ研究センター長を務めた。平成21年(2009年)6月、東京大学名誉教授の称号を授与される。平成27年(2015年)4月からは、東京大学高齢社会総合研究機構 舘研究室において、JST ACCEL 「身体性メディア」の研究を、研究代表者として推進している。
【研究歴】修士課程在学中は、音色の弁別に関する研究、博士課程在学中は、バイスペクトルを用いる信号処理の研究を行なった。機械技術研究所在職の間、電気刺激による情報伝達の研究、筋電制御義手の研究、盲導犬ロボットの研究、テレイグジスタンス研究などロボット工学の先導的研究を行った。昭和54年(1979年)7月より昭和55年(1980年)7月まで、科学技術庁長期在外研究員として米国マサチューセッツ工科大学 (MIT)に派遣され、医療福祉のためのロボット工学の研究を行なった。また、昭和58年(1983年)4月から昭和59年(1984年)3月まで、通商産業省工業技術院大型プロジェクト研究開発官室に併任し、極限作業ロボットの研究開発を立案した。東京大学転任以降、引き続きテレイグジスタンスの研究を進めるとともに、人工現実感の認知制御論、再帰性投影技術(RPT)、臨場空間構成伝送技術、ハプティクスなどの研究を開始し、ロボット工学、バーチャルリアリティ学、計測制御工学、システム情報学に関する先進的研究を推進してきた。
なかでも特に、「盲導犬ロボット」の研究と、「テレイグジスタンス」の研究は、世界で初めてこれらの概念を提唱したことに加え、その工学的実現可能性を、理論的研究と実際のハードウェアを用いた実験的研究の両面から実証した独創的研究として国際的に認められている。また、考案し開発した具体的成果の多くが、国内外で高い評価をうけている。例えば、世界で初めて裸眼での全周囲立体視を可能としたTWISTERは、平成14年(2002年)SIGGRAPHで注目を集め、平成17年(2005年)には日本科学未来館に設置された。
また、オーグメンティドリアリティの可能性を広げた再帰性投影技術を用いた光学迷彩は平成15年(2003年)米TIME誌のCoolest Inventionに選出された。なお、動きが伝わるIP電話RobotPhoneがイワヤ(株)により、また力の分布ベクトル場センサGelForceがニッタ(株)により製品化されている。
さらに平成9年(1997年)以降毎年SIGGRAPHにおいて連続して数多くの技術展示が採択され、国際学会を通して最先端技術を広く世界に発信している。特に、平成24年(2012年)には、細やかな感触を伝えるテレイグジスタンスロボットTELESAR V を世界に先駆けて展示している。また、平成17年(2005年)に開催された愛・地球博においては相互テレイグジスタンスの実証システムTelesarPHONEを展示し幅広い層に最先端技術を紹介した。
【社会への貢献】平成7年(1995年)4月から平成11年(1999年)3月まで、文部省重点領域研究「人工現実感の基礎的研究」の領域代表者として、バーチャルリアリティの学問領域としての確立に貢献した。また,平成9年(1997年)7月から、日本学術会議計測工学専門委員会委員長として計測工学の体系化に取り組み、現在、日本学術会議連携会員として工学基盤における知の統合分科会の委員長を務めている。なお、昭和63年(1988年)からは,IMEKO(国際計測連合学会)のTC17(ロボティクスにおける計測)の議長としてロボティクスと計測制御の国際化に貢献している。
日本バーチャルリアリティ学会を創設し、平成8年(1996年)5月から平成13年(2001年)3月まで,日本バーチャルリアリティ学会初代会長を務め、現在は特別顧問を務めるほか、計測自動制御学会(SICE)第46期会長を務め、現在、名誉会員・フェロー。日本ロボット学会設立時理事を務め、現在フェロー。その他、日本機械学会フェロー、横断型基幹科学技術研究団体連合(横幹連合)副会長、横断型基幹科学技術推進協議会(横幹技術協議会)設立時副会長。
また、IEEE VR2001(IEEE 主催バーチャルリアリティ国際会議2001)組織委員長、IEEE VR 日本代表、ISMCR(ロボットにおける計測と制御国際会議)General Chair、ICAT(人工現実感とテレイグジスタンス国際会議)組織委員長、バーチャルリアリティ産学研究推進委員会委員長、文部省重点領域研究「人工現実感」領域代表者、創造的情報通信技術研究開発「視触覚相互提示システム」研究代表者、「ヒューマノイド・ロボティクス・プロジェクト(HRP)」サブ・プロジェクトリーダー、CREST「テレイグジスタンスを用いる相互コミュニケーションシステム」研究代表者、総務省ICTイノベーション創出型研究開発(SCOPE)「多人数が自由に行動する実空間への身体性を有したテレイグジスタンス技術の研究開発」研究代表者、CREST「さわれる人間調和型情報環境の構築と活用」研究代表者、ACCEL「触原色に立脚した身体性メディア技術の基盤構築と応用展開」研究代表者などを務めている。
アウトリーチ活動として、平成5年(1993年)に、学生にVRを普及し若手研究者を育成する目的で国際学生対抗バーチャルリアリティコンテスト(IVRC)を創設した。このコンテストの参加者から数多く(20名以上)のVR研究者を輩出している。また、平成11年(1999年)にはNHK人間講座「ロボットから人間を読み解く;バーチャルリアリティの現在」の講師としてロボティクス、VRの最先端技術を広く社会に紹介した。
【受賞等】日本ロボット学会論文賞、計測自動制御学会論文賞、同技術賞、情報処理学会論文賞、日本バーチャルリアリティ学会論文賞などのほか、 Electrocutaneous Communication in Guide Dog Robot (MELDOG) の研究に対して IEEE/EMBS(米国電気電子工学会医療工学部門)論文賞、「人間と共存する第三世代ロボットの研究」によって通商産業大臣表彰、「テレイグジスタンスの研究」に対して文部科学大臣表彰(科学技術賞研究部門)、「ロボティクス分野における国際学術の興隆と普及に対する顕著な貢献」を顕彰するIMEKO Distinguished Service Award(国際計測連合学会特別勲功賞)を受賞、また「テレイグジスタンス、バーチャルリアリティ、ハプティクス、オーグメンティドリアリティの発展への貢献」を顕彰するIEEE Virtual Reality Career Awardを日本人として初めて受賞した。なお、Laval Mayenne Technopole賞やグッドデザイン賞(新領域デザイン部門)を受賞、ASIAGRAPHアワード匠賞の第一回の受賞者となっている。指導する学生の受賞も多く、学術奨励賞20件以上、東京大学総長賞や研究科長賞受賞者も輩出している。
【著書】『メカトロニクスのはなし』日刊工業新聞社、『自然とロボット(盲導犬)』桐原書店、『画像処理とパターン計測』朝倉書店、『バーチャル・テック・ラボ』工業調査会、『人工現実感』日刊工業新聞社、『ロボットから人間を読み解く』日本放送出版協会、『人工現実感の基礎』培風館、『ロボット入門』筑摩書房、『バーチャルリアリティ入門』筑摩書房、『Telecommunication, Teleimmersion and Telexistence』IOS Press、『Telecommunication, Teleimmersion and Telexistence II』IOS Press 、『Telexistence』world Scientific、『Telexistence 2nd Edition』world Scientific、『バーチャルリアリティ学』日本バーチャルリアリティ学会などがある。
【現在の主な研究】
ロボット、バーチャルリアリティ、テレイグジスタンス、触原色、身体性メディアなどの研究を行っている。
1)テレイグジスタンス(telexistence): テレイグジスタンスとは、遠隔のロボットを自分の分身として利用し人間の時空の制約を開放しようとする試みであり、現在、Telesar IIとTELESAR IV呼ぶ臨場感と存在感を有して相互テレイグジスタンス可能なロボットシステムを研究している。ネットワークを介してテレイグジスタンスを可能とするアールキューブ(R3 : Real-time Remote Robotics)の実現のための基礎的な研究もあわせ行っている。
2)臨場空間構成伝送技術: TWISTER(Telexistence Wide-angle Immersive STERoscope)という眼鏡なしで360度立体視可能なシステムを、オフイスや街角に置いて、それをブースとして離れたところにいてもあたかも面談しているような状態でコミュニケーションすることを可能とするシステムを研究している。電話の延長として捉えておりテレイグジスタンス電話とも呼んでいる。
3)再帰性投影技術(RTP: Retroreflective Projection Technology): 実空間に情報空間を重畳して実空間を拡張する所謂オーグメンティド・リアリティ(AR: Augmented Reality)のための視覚ディスプレイ技術であり、従来のHMD(Head Mounted Display)やIPT(Immersive Projection Technology)に並ぶ新しい方式として提案。再帰性反射材を実物体に塗布し、物体そのものをスクリーンに変え、人間の側にあるプロジェクターから投影する。これにより、光学迷彩(Optical Camouflage)や透明コックピット(Transparent Cockpit)も可能となるほか、裸眼多視点ステレオ(Repro3D)を実現することができる。
4)ハプティクス (Haptics): GelForceと呼ぶ分布ベクトル力場を計測できる触覚視覚変換方式の触覚センサに加えて、その触覚情報を人間に提示するための方法を基礎的に研究している。特に,視覚における三原色と同様の仕組みを触覚にも求める触原色を提案、その解明と実現を経皮電気刺激や振動刺激などの研究を通して行っている。また、遭遇型と称する固有受容感覚提示法に加え、皮膚感覚の記録・伝送・再現も触原色の観点から研究している。細やかな触感を伝えるTELESAR V の研究を通してHaptic Telexistenceの実現も目指すとともに、新たな触感を創成するHaptic Editorの実現も目指している。
5)身体性メディア (Embodied Media) : 触原色原理に基づき小型・一体型の触覚伝送モジュールを開発し産業界や一般のユーザーに広く提供することで、触覚を持つ身体的経験の記録、伝送、再生に基づく製品やサービスの早期創出を推進しすることを目的として研究開発を進めている。放送分野やエンターテインメント分野での実用化を志向した「身体性コンテンツプラットフォーム」、およびロボットを用いた遠隔就労という新しい産業の可能性を示す「身体性テレイグジスタンスプラットフォーム」の2つの実証システムを構築し、社会的・経済的インパクトを与えるイノベーションの実現を目指している。
http://www.jst.go.jp/kisoken/accel/research_project/ongoing/h26_05.html